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第9回 バランス感覚を磨くには常にバランスを意識することである
(1996年12月1日)

第1回で「経営とはチェック・アンド・バランスである」と書きました。舌足らずでしたので、今回はこの点についていくつかの視点で考えてみたいと思います。

「経営とは・・・・・・」と、いろいろ言うことができますが、経営に関して重要なのは、業績を良くしようとすることよりも、業績が悪くならないようにすることだと思います。なぜなら、業績を良くしようとして失敗して悪くなることがありますが、悪くならないようにしていれば業績が良くなることがあっても悪くなることはないからです。勝ち負けで言えば、勝とうとするのではなくて負けないようにすることです。

このことは科学的にも正しく、ゲーム理論というのがあります。「ゲームに勝つには最大の損失を最小にすることである」とあります。これをミニマックスの定理と言います。ゲームというのは遊びではありません。ビジネスもスポーツもゲームです。

負けないようにすることは消極的な経営に思われがちですが、企業というものは非常に不安定で危なっかしいものなので、少し油断するとすぐに業績が悪くなってしまうのです。その証拠に、現在、優良企業と言われている企業は、過去に業績の悪化に苦しんだ経験が何度もあるはずです。しかも、現在、優良企業であっても、今後も優良企業であり続けるか否かは誰にも分からないのです。

業績が悪くなる主な原因はバランスを崩すからだと思います。なぜなら、常に、バランスを崩さないようにしている企業は安定した業績を確保しているからです。そこで、経営に関するいろいろなバランスについて書いてみようと思います。

第1に、意思決定、執行、監査の3つのバランス。つまり、取締役会、社長(CEO)、監査役(会)の権力のバランス。大企業なのに社長がほとんど1人で何でも決めて、自分の思うままに執行し、自分の思い通りになる監査役に監査させている会社があります。

監査役は社長が任命するので、社長の思い通りに監査しなかったら解雇できます。したがって、他の役員も社長に意見を言うことはできず、黙って従うだけです。いわゆる、ワンマン社長の会社です。社長の名詞に「代表取締役社長」と書かれていたら、その会社はつぶれる可能性があるということです。

日本の会社は昔から、この3つのバランスが悪く、いろいろな問題が生じて多くの会社がつぶれました。この原因は、社長が自己の利益を優先して会社を食い物にしてしまうのです。これを防ぐために、これまでいろいろな法律の改定が行われました。

例えば、公認会計士が業務監査できるようにしたとか、社外取締役を強化したとか、日本版SOX法を作ったとか、会社法を作ったとかです。しかし、未だに防ぐことはできません。

ある一部上場企業でこんな話を聞きました。「わが社には3種類の人間(マン)がいます。ワンマンとイエスマンとガマンです」と。このことが事実だとしたら、この会社はそのうちつぶれるでしょう。

実は、会社だけでなく、国も同じなのです。司法、行政、立法の3つの権力バランスが悪い国は必ず滅びます。これは歴史が証明しています。その典型的な国は、一党独裁政権の国です。日本は、三権分立がなんとか成立していますし、与党と野党が常に相手を批判し合っているので、バランスが図れているのです。よって、滅びることのない安心できる国です。

第2に、プラン、ドゥ、チェック、アクションのバランス。たとえ立派な戦略や計画を立てても実行しなければ何もなりません。また、実行してもチェックしなければ計画しなかったのと同じです。ある企業で数か月かけて中期経営計画を立てました。そして、製本して幹部社員全員に配りました。しかし、数ヵ月後にはほとんどの幹部社員がその計画の存在すら忘れていました。

管理サイクルのPDCAは経営者だけでなく、従業員全員が守らなければなりません。なぜなら、この、PDCAのバランスについては、ほとんどの会社ができていないと言っても過言ではないからです。

第3に、製造、販売、財務のバランス。製造部長の権力が強すぎると過剰投資、過剰品質、納期遅延などになってしまいます。販売部長が強すぎると、品質不良、コスト高などになります。財務部長が強すぎると新製品開発や市場開拓などができなくなりジリ貧になります。

これらの3つのバランスを図るのは難しいのですが、半年ごと、または1年ごとに評価すると、自部門の主張だけでは、結局、自部門のためにならないことが分かります。これも、経営計画とその実施結果をチェックすることによって分かるのです。

みなさんもご存知かと思いますが、『バランス・スコアカード』(ロバートS・キャプラン&デビッドP・ノートン著 吉川武男訳)という本があります。財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、人材と変革の視点、の4つの視点で業績を評価すれば経営はうまく行くというものです。

しかし、これらのバランスをどのように図れば良いのかについては、どこにも書かれていません。要するに、4つとも重要だと言っているだけです。これでは、バランスではありません。そこで、『バランス・スコアカード』の翻訳者である、吉川武男教授に直接聞いたところ、黙ってしまい答えられませんでした。結局、分からなかったのです。

財務そのもののバランスも重要です。収益性、安全性、生産性のバランス。現在は会計ソストを使えばパソコンで簡単に毎月決算書を作ることができますし、経営分析もパソコンで自動的にできますので、会計ソフトの宝の持ち腐れにならないようにしましょう。ポイントは会社全体だけではなく、各部門の財務バランスも計算してみることです。そのためには各部門の会計指標を作る必要があります。

第4に、人、物、金のバランス。昔から良く知られているハード面の経営資源です。でも、バランスという見方はあまりされません。人、物、金はどれもが重要で、相互補完関係にありますので、やはりバランスが大事だと思います。指標は各社で作ってください。

第5に、技術、情報、文化のバランス。これはソフト面の経営資源です。人、物、金に加えて、メーカーでは昔から技術が重視されてきました。最近ではどの企業でも情報が重視されています。かつて、CI(コーポレート・アイデンティティー)が流行した頃は企業文化が重視されました。

これらは単に、一時的な流行でしょうか。そんなことはありません。ハード面だけでなくソフト面を含めた全要素生産性が企業の成長の鍵を握るようになり、ソフト面の経営資源が重視されるようになりました。これらも相互補完関係にあります。

最後に、企業は人なりと言いますが、人そのもののバランスも重要です。業務量と人数とのバランスや部門間の人の配置のバランス、あるいは適材適所という意味のバランスも重要です。それに加えて、人の内部のバランスも大切です。肉体と精神のバランス、健康と知能と感情のバランスも重要です。

悪いことをする人間はきっとこれらのバランスが崩れているのでしょう。ストレスもこれらのバランスの崩れが原因です。最近は健康経営が流行していますが、仕事と従業員の健康のバランスは経営にとって最も重要なバランスかも知れません。

さて、以上、いろいろなバランスについて考えて見ましたが、大切なのはこれらのバランスをどう図るかです。測定できるものもありますが、測定するのが難しいのもあります。そこで、バランス感覚を磨くしかないと思います。そのためには、常にバランスを意識していることだと思います。

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