経営相談どっと混む

第7回 1996年11月1日

 『VEは決められたルールどおりに一生懸命やってはならない』

VE(Value Engineering 価値工学)というものがあります。コストダウンをはじめ新製品開発、業務改革など企業のあらゆる分野の改善改革や開発になくてはならない技術です。これは対象となる物(製品など)や事柄(業務など)の目的と機能を明確にすることにより、本来の姿やあるべき姿を描き、現状のとギャップを発見して改革改善や開発に結びつける技術です。多くの企業ではVE推進室やVE推進本部を設けて常に改革改善や開発を進めております。ところが、最近あまり活発にVE技術を生かした活動が行われていないように思われます。それはきっとVEそのものが常識とは異なる考え方をしたり、あまりにも機能にこだわったり、枝葉末節に走ったりで理解しがたく面白くないからだと思います。本来、改革改善や開発が面白くないはずがありません。そこで、今回はVEについて私の考えを書き、VE技術をもっとわかりやすく面白いものにしたいと思います。

  1. まず、VE(価値工学)の価値概念についてですが、VEでは価値=機能÷コスト(価格)と定義しております。ところが、この定義は一般には理解しがたいことです。たとえば、機能を一定として、製品コスト(価格)が半分になるとその製品価値は2倍になるというのですから。たとえば、最近の価格破壊で商品価格は下がったがそれによって商品価値は上がったとは一般には考えません。通常は、価格が上がっても下がっても商品価値そのものは変わらない、と考えます。つまり、VEの価値概念は常識的なものではないのです。VEでは機能のコスト(価格)を重視するのです。つまり、その機能はいくらに相当するか、と考えるのです。そして、機能が一定ならばコスト(価格)が安ければその商品価値は高いと考えるのです。常識的な価値概念とは異なるので価値指数と呼ぶ場合もあります。

  2. 次に、肝腎な機能とは何かについてですが、これもわかりにくいのです。日本VE協会では、「機能とは固有の働きである」と定義しています(『VE用語の手引き』)。では目的との関係はというと、これが曖昧になっているのです。日本VE協会では、機能を定義する(機能とは何かではなく、対象の機能を明確にすること)場合、「固有の目的と同時に、その達成度もあわせて定義しなければならない」と書いてあります(同書)。したがって、目的とその達成度も機能であることになります。他のVEの本を調べてみると、機能と目的とは別であると考えるものと、機能とは特定の目的または用途である、あるいは、機能とは目的、働き、役割、作用といったもの、など機能は目的を含むものであるとしているものがあります。VEの基本である、「機能とは何か」がこのように曖昧になっているのです。一般的に、機能はどのように理解されているかというと、「物の働き、固有な役割。また、その役割を果たすこと。作用。」(『広辞苑』)となっています。つまり、目的と機能とは別のものと考えるのが一般的なのです。では、実際に、目的と機能との関係はどうなっているのかと言えば、目的を果たすのが機能(働き、役割、作用)なのです。その機能をさらに果たすものは何かと言えば、やはりそれも機能なのです。したがって、目的ー機能(上位)ー機能(下位)、となります。ところが、下位の機能から見れば上位の機能は目的になりますから、機能と目的とは同じになってしまいます。すなわち、

    1)目的と機能とは上位ー下位の関係にある。
    2)目的と機能は相対的なもので同じ対象でも上位から見れば機能、下位から見れば目的となる。
    ということです。

  3. 次に、機能表現についてですが、これが最も難物でVEをつまらないもの、面倒なもの、理解しがたいものとしている原因となっています。なぜかと言うと、機能表現はVEにとって最も重要なものであるがために、より正しい機能表現をしなければすべてがぶち壊しになるとばかり、機能表現にこだわるからなのです。いわく、名詞と動詞の二語で表現する、否定形を使ってはいけない、受動態・使役動詞は避ける、などです。これらのルールにはそれなりの理由があるのですが、これらのルールどおりに表現したとしても、実際には何が正しい表現なのか、どれが良い表現なのかを判断することは誰にもできないのです。それで、結局、みんなの合意によって決めるという事になります。なぜ、こうなってしまうのかと申しますと、言語そのものがあまり機能的にできていないからなのです。文法的にもおかしな表現はたくさんあります。ですから、より正しい表現をしようと努力すればするほどわからなくなってしまうのです。ですから、より正しい表現をしようとしてはならないのです。本来、機能表現をする目的は、抽象化することによってより多くのアイデアを生み出そうとすることにありますから、一つの表現に限定してしまうことはアイデア発想を制限してしまうことになるからです。むしろ、いろいろな表現をした方が良いということになります。しかし、あまり無茶苦茶ではいけませんから、私のルールは一つだけ「簡潔に表現する」というものです。そして、むしろ類似表現を多く出すことです。そのために類語辞典を使うと良いでしょう。たとえば、結合する、結ぶ、合体するなど同じ機能でも表現の違いによって、多くのアイデアが出しやすくなります。

  4. 機能整理、つまり機能系統図の作成についてです。これもまた、難物です。どちらが上位機能か下位機能かを議論したうえで、結局、わからないという結論になったりします。こんな時はどちらでもかまわないと言います。そんな所で貴重な時間を使うのは馬鹿げています。そもそも、機能表現や機能系統図の作成はアイデア発想のための準備なのですから、枝葉末節にこだわる必要はないのです。アイデア発想は機能単位で行いますし、アイデアを基に製品や業務システムを設計する段階で上位下位の関係が変わってくるからです。

  5. 最後に、アイデア発想についてです。VEでは目的および機能を明確にして上で、ブレーンストーミングなどの発想技法を用いてアイデア発想するということになっています。つまり、アイデア発想そのものの技術はVEには特にありません。そのためかアイデアがあまり出てこないのです。せっかく機能的見方を学んでもアイデアが出てこないのでは何もなりません。そこで、私なりに考えた結果、次のことがわかりました。

    1)目的機能研究はアイデア発想をしやすくすると同時に、無駄なアイデアを発想しないようにする効果がある。しかし、より多くのアイデアを出すという効果はあまりない。

    2)アイデアを発想するためには、アイデアの元になるいろいろの専門知識が必要である。専門知識がなければ絶対にアイデアは生まれない。

    3)特定のテーマ、機能についてならば、素人でも短時間に専門知識を得ることは可能である。

    以上の点を踏まえて、私なりにアイデア発想に結びつく専門知識習得法を考えました。これについてはその一端をすでに第3回で書いておりますので、ご参照ください。この方法によれば、芋ずる式にアイデアが出てきますので、後の整理と適合化検討が非常に大変ですが、VE活動が面白くなることは間違いありません。

参考文献:
ローレンス・D・マイルズ著『価値分析の進め方』『VA/VEシステムと技法』、アメリカ国防総省編『新版・価値分析ハンドブック』、日本バリューエンジニアリング協会『VE用語の手引き』、日本規格協会『VEと標準化』、産業大学総合研究所VMセンター編『VEの基本』、倉林良雄他著『価値工学』、手島直明著『実践価値工学』、田中雅康著『VE』、石原勝吉著『現場のVEテキスト』他