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第59回 コンサルタントは改善案を作ってはいけない(2002年4月15日)

コンサルタントはクライアント企業の改善案を作ってはいけません。まして、戦略を立案するなどとんでもないことです。このように言うと、おかしなことを言うと思われるかもしれません。コンサルタントなのだから、改善案を作ったり戦略を立てて、クライアント企業の成長発展のために働かなくてはならないはずなのに、とお考えかもしれません。しかし良く考えてみてください。改善案を作ったり、戦略を立てるのはクライアント企業の人たちです。コンサルタントの仕事ではありません。コンサルタントが改善案を作ったら管理者の仕事はなくなります。また、戦略を立ててしまったら経営者の仕事はなくなります。よって、経営者・管理者は必要なくなります。

そもそも、経営者・管理者の重要な仕事は意思決定です。改善案を作ったり戦略を立てたりするのはいろいろな意思決定の中でも最も重要な意思決定です。この意思決定を外部の人間に任せてしまったなら、企業は腑抜けになってしまいます。船頭も一等航海士もいない船のようなものです。波のまにまに漂う木の葉のようになってしまいます。このように、経営者・管理者不在の経営管理をドリフティングマネジメントといいます。ドリフティングとは波に漂うという意味です。

以前、あるコンサルタント会社で、新人のコンサルタントが先輩コンサルタントの指導を無視してクライアント企業の改善案を作ってしまいました。そして、クライアント企業はコンサルタントが作ってくれたのだからうまくいくと思い、それを実行したのです。それでうまくいったので業績が向上しました。それをいいことに、また、改善案を作り、企業もまたそれを実行したのですが、今度は失敗して業績が悪化してしまいました。

そのコンサルタントは失敗したのは戦略が間違っていたからだとして、こともあろうにこんどは戦略まで作ってしまったのです。実は、クライアント企業の戦略を作るのは、そのコンサルタント会社の方針で禁止されていました。それを無視して作ってしまったのです。そして、クライアント企業はその戦略を実行に移したのです。その結果どうなったと思いますか。その企業は業績が急激に悪化し、半年後に倒産してしまったのです。そのコンサルタントは、会社方針を無視しクライアント企業を倒産させたとしてコンサルタント会社から懲戒免職になりました。また、クライアント企業の債権者から訴えられてしまいました。数ヶ月の調停の後に、損害額数十億円を経営者とコンサルタントとで半額づつ賠償することになりました。その数日後、コンサルタントは自殺してしまったのです。

経営者も管理者も一般社員もそれぞれの役割を果たさなければなりません。その中でも重要な役割が意思決定です。そして、意思決定の中でも特に重要な意思決定が戦略の立案と改善案の作成なのです。なぜなら、どちらも企業を成長発展させるための意思決定だからです。通常の業務遂行のための意思決定はルーチンワークですので、あまり間違えることはないと思います。しかし、戦略や改善案は初めての内容ですので、間違えることが良くあります。そこで、失敗したらどうしようとか、誰が責任を取るのかといったことを考え意思決定を避けようとします。そこで近頃はやりのアウトソーシング(外部企業に任せる)により、戦略や改善案さえ外部に任せる企業が増えているようです。企業にとって必要なコアコンピタンス(生存のための中核能力)は絶対にアウトソーシングしてはいけませんが、同時に、企業の成長発展のために必要な戦略立案や改善案の作成も人任せにしてはいけないのです。

では、経営コンサルタントは何をするのかといいますと、それはクライアント企業が戦略や改善案を立案するときに、その立案のための支援をするわけです。つまり、上手な戦略の立て方とか改善案の作り方を提案・序言するわけです。このように戦略を立てたらどうですか、このように改善案を作ったら良いですよという具合に提案・序言をするわけです。つまり、コンサルタントの仕事は戦略立案や課題解決のための考え方と進め方を提案・助言することです。この提案・序言を受けて、クライアント企業が戦略や改善案を作り、それを実行するわけです。もちろん、コンサルタントは提案・序言内容をわかりやすくするために具体例を挙げる必要があります。しかし、それはあくまで例であって、戦略や改善案そのものではありません。また、場合によってはいくつかの改善案をコンサルタントが示して、その中からクライアント企業で選んでもらうという場合もあります。この場合でも、選ぶという意思決定はクライアント企業が行なうことになるのです。

経営診断の場合は以上の考え方とは異なります。診断は経営コンサルタントが主導で行ないます。現状を調査し、問題点を発見し、処方(解決の方向付け)を示すのはコンサルタントです。診断と治療(改善)とは別です。しかし、診断を企業に行なってもらう場合もあります。コンサルタントが診断の仕方を提案し、それに沿ってクライアント企業で自己診断する場合です。これは主に大企業の診断の場合にとる方法です。大企業の場合、この方が良い診断ができます。つまり、誤診がなくなります。実際問題として診断に必要な人員や時間などをクライアント企業で負担してもらった方がコンサルタント側としても都合がよいのです。また、企業側も診断の手法を学べるので、従来とは異なる見方で仕事を見直し、自分たちで問題点を探し、処方を考えることができるわけです。そうすると、治療の段階で自分たちが考えたとおりに必ず実行することになり、大きな成果が上がるわけです。

以上のように、新人コンサルタントは自己主張しすぎてとんでもないことをしでかすのですが、ベテランコンサルタントは自分の役割とクライアント企業の役割を心得ているので、クライアント企業に喜ばれ、しかも成果を確実に上げられるというわけです。