経営相談どっと混む

第5回 1996年10月1日

 『業務改革は社長自ら意識改革をしなければ成功しない』

今回は業務改革の実践的なポイントについて書いてみたいと思います。その前に、リエンジニアリングについて一言。アメリカでは業務改革のことをリエンジニアリング(BPR)と呼んでいるようですが、元来アメリカが日本の業務を見習って作った言葉ですから、日本人が業務改革のことを何もカタカナでリエンジニアリングと呼ぶ必要はないと思います。改善のことを“カイゼン”とカタカナで書くようなものです。アメリカでは改善のことを“KAIZENN”と呼んでいるのですから。さて、アメリカでの業務改革は次の点を特徴としているとのことです。

  1. 顧客満足を目的とする。

  2. 業務プロセスを中心に改革する。

  3. 根本的、抜本的、劇的に改革する。

  4. 情報技術を活用する。
 しかし、これらは日本においても全く同じです。したがって、国による違いはありません。むしろ、企業による違いはあります。ところで、業務改革(リエンジニアリング)に関する本をいろいろ読んでみても、残念ながら実践で参考になるものはあまりありません。業務改革の実践的なポイントについて具体的に書いてあるものがないのです。経験が乏しいのかそれとも公表したくないのかわかりません。そこで、私の経験から業務改革のポイントを具体的に書いてみたいと思います。以下の点をクリアーすれば必ず成功します。当然、クリアーしなければ必ず失敗します。
  1. 目的を明確にする。顧客満足というのは業務改革の目的ではありません。これはより上位の目的です。なぜなら、企業の活動のほとんどは顧客満足につながっていなければなりませんから、企業活動の目的は顧客満足である、といっても過言ではないからです。新製品開発もコストダウンによる製品価格の引き下げも結局は顧客満足が目的といえるでしょう。業務改革で上位目的を掲げるのは本当の目的をカムフラージするための常套手段です。では、本当の目的は何か。これは、企業により異なります。業務改革を実施すれば当然、業務の効率化が図られ、通常、20〜30%の人員(業務時間にして30〜40%)が余ります。この余った人員(時間)をどうするのかが業務改革の目的です。事業の拡大、業務の強化などへの取り組み、時短や人員削減による人件費削減などがあります。人員削減が目的である場合、それを明確にする企業はありません。このような企業が顧客満足などを目的に掲げるのです。しかし、従業員は馬鹿ではないので見抜きます。したがって、積極的に業務改革を実施しません。よって、失敗します。業務改革を実施する場合にはその目的について十分に検討し、従業員が納得して積極的に取り組めるようにしなければなりません。

  2. 業務改革は多くの場合、組織の再編成を伴いますのでその点についても十分な検討が必要です。ところが、多くの企業ではこれらの検討は業務改革が終わったあとでやれば良いと考えているので、やはり従業員の積極的な取り組みが得られず失敗してしまうのです。そこで、私は役員会用のプログラムを別途作成して、業務改革の実施以前に、または、業務改革と平行して、このプログラムに沿って業務改革の目的および組織再編成について議論していただいております。いずれにしても業務改革が終了する時点で新組織および人事異動の発表をしなければけません。これをしないと業務改革が終了したことになりません。

  3. 社長自ら業務改革を実施する。いわゆるトップダウンで業務改革を行うという意味ではありません。社長が自分自身の行っている仕事を改革するのです。範を示すのです。社長がやらなければ他の役員はやりません。役員がやらなければ部課長もやりません。部課長がやらなければ一般社員もやりません。いわゆる火の用心と同じです。

  4. 現状の業務分析は業務プロセスと業務の目的・機能を明確にするだけでなく、必ず、業務の測定と評価を実施することです。測定と評価は業務時間(コスト、リードタイム)と業務品質に対して行います。要するに、工場の作業と同じです。よく、業務の測定は難しいと言われますが、それは技術的な問題ではなく、測定されたくないというホワイトカラーの甘えとおごりが原因です。今まであまり実施しなかっただけのことです。評価についても同じで技術的な問題ではありません。むしろ、正当に評価されたいと思っているのです。要するに、評価はされたいが測定はされたくないということです。これを解決する方法は簡単です。評価するために結果を測定すれば評価したことになります。

  5. 業務プロセスごとにあるべき姿を描く。あるべき姿は経営環境、経営資源、他社情報などを考慮して描きます。現状の分析をした後の方が描きやすいでしょう。問題点と改革の方向が見えてくるからです。と言っても、実際には難しいのです。それは意識改革がなされていないからです。意識改革とは簡単に言えば、「現状を否定しより高い目標へ向上する心を持たせること」ですが、意識改革を実施すれば現状のままでいたいという心との葛藤が生まれます。葛藤がなければ業務改革などできません。