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第8章 多品種少量生産のためのコストダウン・原価低減8-1 5S消費者ニーズの多様化・高度化に伴い、多品種少量生産の全盛時代になりましたが、多品種を少量生産するというのは単純に考えれば大幅なコストアップになり、納期も長くなってしまいます。しかし、消費者は低価格で短納期を望んでいます。そこで、企業はあらゆる取り組みをして低価格(低コスト)、短納期を達成するために努力しなければなりません。その代表的な取り組みを今回から順に解説いたします。 まず、5Sですが、5Sというのはどなたでもご存知の、整理、整頓、清掃、清潔、躾のことです。最近では作法を加えて6Sとする場合もありますが、ここでは5Sとします。さて、昔から多くの人が5Sの重要性を解き、具体的な提案をしていますので、いまさら何だと言われそうです。しかし、未だに多くの工場では徹底せず困っておりますので、ちょっと違った視点で書いてみたいと思います。 多くの人は5Sを生産現場に必要なものだと考えております。しかし、5Sの考え方は生産現場だけでなく事務所でも必要なものですし、実は、企業経営のあらゆる場面に必要なものなのです。つまり、5Sの対象は経営資源すべてなのです。また、多くの人は現状分析的な発想で5Sを取り上げていますが、演繹的な発想、つまり目的思考の発想も必要なのです。これらを踏まえて、改めて5Sを考えてみたいと思います。 広辞苑によれば整理とは、(1)乱れた状態にあるものを整え、秩序正しくすること、(2)不必要なものを取り除くこと、です。また、一般に、企業では、「整理とは要るものと要らないものとを区別し、要らないものを処分すること」と定義されます。したがって、まず、要るものと要らないものとを区別する基準を明確にすることが必要なのです。 多くの企業で整理ができていない原因はこの整理のための基準が明確になっていないためです。人によって整理するかしないかの基準が異なれば、会社のものを勝手に処分することができないため整理ができないのです。よって、整理基準の無い会社では整理ができないわけです。 さて、整理の目的はムダの排除です。例えば人を対象にすれば、整理とは要る人と要らない人とを区別し、要らない人に辞めてもらうことです。このように、昔は人員整理などという言葉がよく使われましたが、現在では整理するよりいかに活用するかが重要となりました。そのため人を資源と考えて人的資源とか人材(人財)とかと言っています。しかし、現在でも景気が悪くなると相変わらず人員整理が行われます。 同じように、資金、設備、技術、情報などを対象にして整理を当てはめてみると、これらにも使用できることがわかります。実は、整理だけでなく次に説明する整頓にも当てはまります。つまり、人的資源管理、資金管理、設備管理、技術管理、情報管理などの経営資源の管理の基本は整理整頓なのです。 広辞苑によれば整頓とは、(1)良く整った状態にすること、(2)きちんとかたづけること、です。また、一般に、企業では、「整頓とは整理されたものについて置き場所を決めその場所を明示しておくこと」です。では、整頓の目的はなんでしょうか。整頓の目的はいつでもすぐに使えるようにしておくことです。 多くの企業ではあまり整頓の目的を考えないようです。そのため、使う時に探さなければならないということがよくあります。ちなみに、自宅ではあまり整頓しなくても問題ありません。たとえば、野口悠紀雄教授の書かれた『超整理法』にもあるように、整頓しない方が良いのです。つまり、個人で専用に使うものは整頓する必要がないのです。なぜなら、置き場所は個人の記憶に頼れば良いからです。整頓するとかえって古い記憶と新しい記憶が錯綜し、どこに置いたかわからなくなってしまうのです。 ところが、会社で用いるいろいろな経営資源は、多くの人が使いますから整頓が必要なのです。つまり、複数の人が共同で使うものは整頓が必要なのです。したがって、整頓は、個人専用のもの、職場内で共同で使うもの、部門内の人が共同で使うもの、全社員が共同で使うもの、などと区別することから始めます。 例えば、「顧客クレーム情報」などはクレーム処理係や品質管理部門だけのものではなく、全社員で共同で使うものですので、全社員共同のファイルに入れておかなければいけません。生産現場でも同様に考え、治工具や図面などを個人専用、職場内共同、工場内共同などに分類するのが先決なのです。そのうえで、置き場所や置き方のルールを決める必要があります。 また、どのようなルールにするかはそれを使う人たちが話し合って決めれば良く、工場長などが自分では使わないのに、工具の置き場所や置き方などを決めたりすると問題が起きるのです。ちなみに、工場長室にある工場長専用の書類などは整頓する必要はありません。 少し考えればわかると思いますが、一つの生産ラインの工場で一品種多量生産の場合には基本的に整理は必要ですが整頓はあまり必要ありません。なぜなら、専用の機械設備を使い専用の治工具を使い専門工が専任で作業をしますから整頓はあまり必要ないのです。 逆に、多品種少量生産となるとこれはもうたいへんです。複数の人が多くの材料や部品と多くの機械設備や治工具を使うのですから、きちんと整頓しておかないと何がどこにあるのかさっぱりわからず作業ができなくなってしまいます。このように、なぜ整頓が必要なのか、その目的を知ると確実に実行できるようになります。 ある会社の事務所で時々備品が紛失して困る、という話を聞きました。社長は、「我が社は5Sを徹底してやっているのになぜ紛失するのかわからない」と言っています。そこで、従業員にそのことを話すと、「明日の朝早く会社に来てみれば紛失する理由がわかります」と言うのです。そこで、不思議に思いながらも翌朝早くその会社に行ってみると、なんと社長が自ら事務所を掃除しているではありませんか。社長は、「このとおり私が率先して5Sをやっているのです」と言うのです。 従業員の机の上を社長が社長の好きなように整理・整頓・清掃するので、従業員が前日準備しておいた仕事ができなくなってしまうのです。その上、専用に使っている備品まで社長が片付けてしまうので「紛失」することになるのです。困った社長です。 清掃とは広辞苑によれば、(1)きれいに掃除すること、(2)さっぱりと払い除くことですが、その目的はいろいろあります。機械の清掃を考えてみると、故障防止や性能向上など重要な目的があることがわかります。職場の清掃は不良発生の防止、怪我の防止、仕事の能率向上などです。 したがって、職場の清掃はその職場を使う人が自らやらなければいけません。自分たちの職場は自分たちで清掃することで、問題の発生を防止するだけでなく気持ち良く仕事ができるようになるのです。つまり、心の清掃でもあるのです。 清潔とは広辞苑によれば、(1)汚れがなくきれいなこと、(2)衛生的なこと、(3)人格や品行が清く潔いことです。この定義からすると、清潔にする目的は、病気の予防と人格や品行の維持・向上になるでしょうか。清潔にしていないと病気になったり人格や品行が悪くなったりするわけです。 一般に企業では、多くの本に書かれているように、清潔とは整理、整頓、清掃を維持することと定義されていますが、これは間違いだと思います。なぜなら、整理、整頓、清掃そのものに維持する意味が含まれているはずだからです。 つまり、整理、整頓、清掃などは一度行えばよいのではありません。必要になればいつでも何度でも行わなければならないのです。したがって、維持することになります。 職場では人が働き、顧客が触れたり口に入れたりする製品を作っています。従業員や顧客の肉体的及び精神的な病気の予防と従業員の人格や品行の維持・向上のために、従業員や職場を清潔にする必要があるのです。清潔とは汚れの除去など目に見える部分だけでなく、バイ菌の除去など目に見えない部分や人格・品行の維持・向上などまで含まれているのです。 躾とは広辞苑によれば、礼儀作法を身につけさせることです。礼儀作法は職場では職場規律に当りますから、躾とは職場規律を身につけさせることです。躾の目的は、職場や人間社会でお互いに気持ち良く働いたり社会生活したりするために、他の人に肉体的・精神的な危害を与えたり、自分が危害を受けたりしないようにすることです。 要するに、社会人として自立し、一人前の社会人になるためなのです。実際に、きちんと挨拶をするなど立ち居振る舞いを正しくできるようにするだけでなく、躾ができていないと生命に関わる場合もあるので非常に重要です。例えば、作業着の袖のボタンをきちんとはめずにいたため、機械に袖を巻き込まれて、腕を切断したり、命を落としたりすることがあります。躾は道徳を身につけるためだけではないのです。 以上でお分かりのように、5Sというのは非常に重要なものです。それは、人のためだけではなく、自分のためでもあるからです。5Sの目的を明確にすることによって、本当の意味が良く理解でき確実に実行できるようになります。多くの企業では、その目的を明確にしないためにきちんと実行できないのです。 また、5Sができない職場では、多品種少量生産ができないことも理解できたと思います。最近では、消費者ニーズの多様化・高度化がいっそう進み、多品種少量生産が一般化しており、さらに多くの企業で個別受注生産が増加しております。したがって、いっそう5Sが必要になると思います。 日経新聞によると、最近、アメリカで業績を上げている企業を調べてみると、日本の真似をして、5Sを実施したためだとわかったそうです。最近、アメリカで日本のジャスト・イン・タイム方式を取り入れる企業が増加しているそうですが、ジャスト・イン・タイム方式を導入するためには、まず5Sが欠かせないからです。 しかし、アメリカでは産業別組合の力が強いため、5Sを実施するのが非常に難しいようです。つまり、5Sは清掃員の仕事を奪ってしまうため清掃員組合が5Sに強く反対しているためです。整理整頓は通常、従業員が自ら職場を清掃することから始めますから、清掃ができなければ整理整頓ができないわけです。ジャスト・イン・タイム方式は当分の間、日本のお家芸と言うことになりそうです。 Ⓒ経営相談どっと混む
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